病院は医療の質と量を維持しながら経営を合理化していくことが課題となってきました。
コロナ禍の経営からは転換し、医療体制を変化させる必要に迫られています。
転職・就職で押さえておきたい医療機関・病院グループ業界の概要と動向についてご紹介します。
病院グループの基礎知識
医療施設の種類
医療施設は病院と診療所に大きく分けられます。
病院
病院は入院可能なベッドが20床以上ある施設です。
病院は一般病院(特定機能病院、地域医療支援病院、療養病床を有する病院)、精神科病院、結核療養所に分類されます。
診療所
診療所は19床以下の施設です。
診療所は有床、療養病床を有する一般診療所、無床に分類されます。
国公立
国が開設する病院には独立行政法人によって運営される病院や国立高度専門医療センター等があります。
国立病院機構
高度医療を行う総合病院です。
国立病院の多くは陸海軍病院、傷痍軍人・傷病軍人療養所、結核療養所などの軍事関連施設が発祥で、その後、国立病院や国立療養所になりました。
現在は独立行政法人に移行しています。
- 病院数:140
- 病床数:52,697
国公立大学病院
大学病院は診療・医療だけでなく、教育と研究の場でもあります。
また地域・社会貢献でも大きな役割を担っています。
特定機能病院の指定のほか、がん診療連携拠点病院、高度救命救急センター、総合周産期母子医療センター、難病医療拠点病院としても承認されています。
- 病院数:46
- 病床数:32,724
労災病院
労働者健康安全機構が運営しています。
13の病院が災害拠点病院に指定されています。
- 病院数:32
- 病床数:12,064
地域医療機能推進機構(JCHO)
社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院の運営を継承し、JCHOが直接運営する病院グループになりました。
- 病院数:57
- 病床数:15,258
自治体病院
日本の病院で民間病院に次いで多いのが自治体病院です。
都道府県立病院
都道府県が運営または指定管理者に運営を委任することもあります。
- 病院数:196
- 病床数:51,216
市町村立病院
自治体病院の約7割が市町村立病院です。
町立や村立は僻地医療の拠点となっています。
- 病院数:603
- 病床数:121,586
地方独立行政法人
病院再編により都道府県立や市町村立から独立した病院です。
- 病院数:114
- 病床数:44,535
公的病院グループ
公的医療機関に参加している病院も数多くあります。
赤十字病院
日本赤十字社が運営しています。
本社が東京にあり、支部が全国都道府県にあります。
支部には医療施設、血液事業施設、社会福祉施設があり、国内外の災害救護や医療支援、血液供給などを行っています。
- 病院数:91
- 病床数:34,659
済生会病院
社会福祉法人恩賜財団済生会が運営しています。
病院や介護老人保健施設、老人・児童福祉施設、訪問看護ステーションなどを積極的に行っています。
- 病院数:83
- 病床数:22,564
JA厚生連病院
厚生農業協同組合連合会が運営しています。
JAの厚生事業として農山村地域での保健・医療・高齢者福祉事業を推進しています。
厚生連病院の約4割は人口5万人未満の市町村に立地しています。
- 病院数:100
- 病床数:31,667
民間病院
民間病院は、個人の医師や医療法人などが経営しています。
日本の病院の約7割は民間病院です。
個人経営とグループ化の二極化が進んでいます。
徳洲会グループ
医療法人徳洲会を中心する日本最大の民間病院・介護事業グループです。
離島・僻地医療に積極的に取り組み、病院やクリニックを開設してきました。
- 病院数:75
- 病床数:18,812
板橋中央医科グループ(IMS)
IMSグループは板橋中央総合病院を中心とした病院経営・医療事業グループです。
全国に病院や診療所、介護施設等を運営しています。
- 病院数:35
- 病床数:12,382
上尾中央医科グループ
上尾中央総合病院を中心に埼玉県のほか東京都、千葉県、神奈川県、山梨県など1都6県で展開しています。
病院と老人保健施設、クリニック、訪問看護、訪問介護ステーションなどがあります。
- 病院数:28
- 病床数:6,309
戸田中央医科グループ
一般社団法人TMG本部が戸田中央総合病院を中心に1都4県で展開しています。
- 病院数:29
- 病床数:6,336
私立学校法人
慶応大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学、順天堂大学、昭和大学など私立医学部があります。
- 病院数:113
- 病床数:56,039
社会福祉法人
介護系の施設を運営するなど主に社会福祉事業を行い、病院経営も行っています。
- 病院数:198
- 病床数:33,616
病院グループの採用市場
医療施設・病院の医療部門
医療機関・病院の組織は診療に関わる「医療部門」と、診療を行わない「事務部門」に大きく分けられます。
医療部門の主な職種
- 医師、歯科医師
- 看護師、准看護師、看護助手
- 助産師、保健師
- 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士
- 医療ソーシャルワーカー
- 歯科衛生士、歯科助手
- 管理栄養士 など
医師
医師は診療から検査、回診、手術、カルテ作成、当直などを行います。
内科、循環器科、神経科、小児科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科など直接、患者を診察する医師だけでなく、手術中の麻酔管理をする麻酔科医、検査画像から診断する放射能科医、採取した細胞分析や病理解剖を行う病理医などが専門分野で活躍しています。
看護師
看護師は医師の指示のもと診察補助を行います。
外来、病棟、手術など働く場所で、仕事の内容が異なります。
効率的な診療やチーム医療で重要な役割を果たしています。
専門化が進み、専門分野でキャリアを積むケースが増えています。
リハビリ指導員
社会の高齢化が進み、リハビリ指導の重要性が増しています。
理学療法士(PT)は身体障害や機能が低下した人に対して回復を目的としたトレーニングを行います。
作業療法士(OT)は次の段階である社会復帰を目指して創作活動やレクリエーションを行います。
言語機能や聴覚の訓練を行う言語聴覚士(ST)のニーズも高まっています。
医療施設・病院の事務部門
事務部門は事務長を中心として、医療部門を支える組織が設置されています。
医療事務
医療事務は受付や診療報酬請求書を作成するレセプト請求業務を行います。
医師の助手業務などもあり、幅広く病院の業務をサポートします。
アウトソーシングによる専門会社も増えています。
経理・会計
経理・会計、出納管理、未収金管理を担当する部門です。
人事・総務
医師や看護師など医療従事者の人材確保が厳しさを増し、事務部門に専門の担当を設置する病院が増えています。
有資格者の採用には医療知識も必要となってくることから、業界経験者が求められます。
事務系アウトソーシング
医療費抑制政策による人員削減で医療事務のアウトソーシング化が進みました。
医療従事者の求人・転職
医療施設・病院では、医師や看護師の不足が深刻な問題となり、転職市場は活発になりました。
医療職全体として、有効求人倍率は以前より下がってはいるものの、他の職種より高い水準を維持しています。
医療従事者の平均給与
職種 | 所定内労働時間 | 残業 | 月収 |
医師 | 164時間 | 20時間 | 1,090,700円 |
歯科医師 | 167時間 | 3時間 | 695,800円 |
獣医師 | 167時間 | 27時間 | 491,800円 |
薬剤師 | 165時間 | 10時間 | 417,500円 |
保健師 | 162時間 | 5時間 | 312,900円 |
助産師 | 159時間 | 6時間 | 395,800円 |
看護師 | 159時間 | 6時間 | 352,100円 |
准看護師 | 160時間 | 4時間 | 286,800円 |
診療放射線技師 | 163時間 | 9時間 | 367,400円 |
臨床検査技師 | 158時間 | 12時間 | 351,400円 |
理学・作業療法士等 | 162時間 | 5時間 | 300,900円 |
歯科衛生士 | 164時間 | 8時間 | 296,200円 |
歯科技工士 | 172時間 | 7時間 | 339,500円 |
栄養士 | 165時間 | 6時間 | 268,100円 |
その他の保健医療従事者 | 161時間 | 9時間 | 318,500円 |
看護助手 | 158時間 | 2時間 | 222,500円 |
(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より)
医療従事者の転職活動
専門化する医療職の転職ではエージェントサービス(人材紹介会社など)を利用する割合が高くなっています。
サービスを利用すると、業界や職種に精通したキャリアアドバイザーのサポートを受けることができます。
非公開・好条件の求人紹介だけでなく、書類作成や面接対策のアドバイスなどで選考通過率のアップが期待できます。
まとめ
コロナ後の経営環境の変化だけでなく、医師の「働き方改革」など病院の経営は厳しい状況が続く可能性があります。
医療体制を守る対応が必要になっています。
【参考】
・厚生労働省ウェブサイト
・ハローワークインターネットサービス
・東洋経済新報社『四季報業界地図2024年版』