医療機器は先進医療を支えています。国内では専門化した独自の製品や技術をもとにオンリーワン企業が多く、安定的な成長が期待されています。
就活・転職で押さえておきたい医療機器業界の概要と動向についてご紹介します。
医療機器業界
医療機器とは、人もしくは動物の診断や治療、予防で使用されること、または人もしくは動物の身体の構造や機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等で、政令で定められているもののことです。
医療用機械器具と医療用品
医療機器は、使用目的などから「診断系医療機器」「治療系医療機器」「その他医療機器」に分類されています。
日本標準産業分類では、主に外科用、内科用、眼科用、耳鼻咽喉科用、その他の医療用機械器具を製造する事業を医療用機械器具製造業としています。
また、主に手術用品、外科用品、整形外科用品、放射線関連用品、眼科用品、耳鼻咽喉科用品を製造する事業を医療用品製造業としています。
高齢化や医療水準の向上に伴い、医療機器業界は世界的な成長が見込まれています。
医療費削減に向けては、性能だけでなく、IT活用による早期診断を可能にする技術に期待が高まっています。
診断系医療機器
画像診断システム、画像診断用X線関連措置および用具、生体現象計測・監視システム、医用検体検査機器、施設用機器が分類されます。
- 画像診断:CT、MRI、X線、超音波診断装置
- 生体現象計測:内視鏡、心電計、体温計、血圧計
- 検体検査:血液検査、免疫測定装置、遺伝子検査 など
治療系医療機器
処置用機器、生体機能補助・代行機器、治療用または手術用機器、鋼製器具が分類されます。
- カテーテル
- 注射器
- 人工心肺装置
- 人工透析装置
- ペースケーカー など
その他医療機器
歯科用機器、歯科材料、眼科用品および関連製品、衛生材料、衛生用品および関連製品、家庭用医療機器が分類されます。
- コンタクトレンズ
- 不織布 など
画像診断
X線やCT、MRI、PET、それらの複合機も登場しています。
日本企業が強い分野で、世界でも一定のシェアがあります。
キヤノン
子会社キヤノンメディカルシステムズがCTやX線診断装置などで国内首位。
画像診断装置を中心に超音波診断装置や臨床検査装置も手がけています
- 設立:1937年8月10日
- 本社:東京都
- 従業員数:180,775人
コニカミノルタ
X線装置、超音波診断装置など。
- 設立:1936年12月22日
- 本社:東京都
- 従業員数:39,775人
島津製作所
X線撮影装置や血管撮影装置など。
- 設立:1917年9月
- 本社:京都府
- 従業員数:13,898人
内視鏡
内視鏡は観察・治療する部位により種類が分かれます。
消化器内視鏡など世界市場で存在感を発揮している分野です。
オリンパス
消化器内視鏡で世界シェア7割。
内視鏡・治療機器に注力しています。
- 設立:1919年10月12日
- 本社:東京都
- 売上高:8,819億円
- 従業員数:32,844人
富士フイルムホールディングス
内視鏡や超音波診断など。
日立製作所の画像診断関連事業を買収し、製品を拡充しています。
- 設立:1934年1月20日
- 本社:東京都
- 売上高:9,180億円
- 従業員数:72,254人
HOYA
内視鏡やコンタクトレンズなど。
- 設立:1944年8月23日
- 本社:東京都
- 従業員数:35,702人
生体情報モニター
心電図・心拍数、血圧、体温などのバイタルサインを継続的に測定して記録する装置です。
小型化が進み、多様なアプリケーションで活用されています。
日本光電
生体情報モニター国内首位。
AEDや人工呼吸器、ペースメーカーなども扱っています。
- 設立:1951年8月7日
- 本社:東京都
- 売上高:2,066億円
- 従業員数:5,751人
フクダ電子
生体情報モニター、心電計など。在宅医療支援。
- 設立:1948年7月6日
- 本社:東京都
- 売上高:1,346億円
- 従業員数:4,088人
オムロン
生体情報モニターや血圧計、電子体温計など。
家庭用血圧計は、世界でも高いシェアを占めています。
- 設立:1948年5月19日
- 本社:京都府
- 売上高:1,424億円(部門)
- 従業員数:28,450人
検体検査機器
臨床検査機器、血液検査機器、遺伝子検査装置などが分類されます。
シスメックス
臨床検査機器で国内首位。
血球分析分野に強みがあります。
- 設立:1968年2月20日
- 本社:兵庫県
- 売上高:4,105億円
- 従業員数:9,500人
日本電子
血液分析装置など。
- 設立:1949年5月30日
- 本社:東京都
- 従業員数:3,435人
日立ハイテク
血液分析装置など臨床検査機器。
- 設立:1947年4月12日
- 本社:東京都
- 従業員数:14,746人
PHCホールディングス
血糖値測定器など。
米投資ファンドの傘下です。
- 本社:東京都
- 従業員数:9,403人
生体機能補助・代行機器
人工心臓やペースメーカー、人工呼吸器、人工関節、透析装置などがあり、医療機器産業の最先端技術を担っています。
テルモ
心臓血管領域のカテーテル向け機器に強み。
注射、透析向け機器も手がけています。
- 設立:1921年9月
- 本社:東京都
- 売上高:8,202億円
- 従業員数:30,207人
ニプロ
人工腎臓、透析用品、注射針、カテーテルなど。
透析関連製品を中心に事業を展開しています。
- 設立:1954年7月8日
- 本社:大阪府
- 売上高:5,451億円
- 従業員数:38,770人
日機装
人工腎臓、透析装置など。
- 創業:1953年12月26日
- 本社:東京都
- 売上高:752億円
- 従業員数:8,131人
東レ
透析器、血液浄化器など。
- 設立:1926年1月
- 本社:東京都
- 売上高:537億円(部門)
- 従業員数:48,682人
JMS
輸液セットや透析関連、医療用品。
- 設立:1965年6月12日
- 本社:広島県、東京都
- 売上高:637億円
- 従業員数:5,650人
メディキット
人工透析用など留置針の製造。
- 本社:東京都
- 売上高:216億円
- 従業員数:963人
SBカワスミ
人工腎臓、透析用品、血管内治療器具など。
- 設立:2021年10月1日
- 本社:神奈川県
- 売上高:311億円
- 従業員数:2,460人
処置・治療機器
チューブ・カテーテル類、放射線治療装置など、さまざまな機器が開発されています。
カネカ
カテーテル、検査機器など。
- 設立:1949年9月1日
- 本社:東京都、大阪府
- 売上高:707億円(部門)
- 従業員数:11,545人
朝日インテック
血管用カテーテルなど。
- 設立:1976年7月8日
- 本社:愛知県
- 売上高:777億円
- 従業員数:10,187人
コンタクトレンズ
眼科用の代表的な医療用品としてコンタクトレンズがあります。
メニコン
日本初の角膜コンタクトレンズを開発。
- 設立:1957年7月
- 本社:愛知県
- 売上高:1,101億円
- 従業員数:4,056人
シード
1日使い捨てコンタクトレンズが主力。
- 設立:1957年10月9日
- 本社:東京都
- 売上高:305億円
- 従業員数:974人
世界の医療機器メーカー
世界の医療機器業界では、欧米メーカーが売上高の上位を占めています。
メドトロニック(アイルランド)
世界最大の医療機器メーカー。
心臓・血管などの分野で最先端の治療機器を多く取り扱っています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン(米)
医療機器や医療品、日用品などヘルスケア関連の世界大手。
手術関連の機器を中心に取り扱っています。
シーメンス(独)
画像診断機器の世界大手。
画像診断関連を中心に、その他の診断機器も展開しています。
フィリップス(蘭)
画像診断・超音波診断装置の世界大手。
電機メーカーからスタートしましたが、集中と選択を進め、ヘルスケア企業になっています。
GEヘルスケア(米)
GEの医療機器事業部門(分社化の予定)。
CTやMRIなど画像診断装置を中心に幅広い製品を扱っています。
医療機器メーカーの業務
医療機器業界では、どの職種においても医学や法律的な理解が必要となります。
研究開発
臨床ニーズに基づき、新たな技術や試作品を開発します。
エンジニアとしての専門性と医師や医療機関との関係構築も重要となります。
臨床開発
試作品の有効性や安全性を検証します。
契約や倫理検査など医療機関とのやり取りが多くなります。
薬事
薬事部門では、最新の情報を把握して、規制を遵守するための支援を行います。
法令の知識だけでなく、幅広い業務に関しての理解が必要となります。
製造
医療機器の製造工程を担当します。
機械・電気系のエンジニアが求められます。
品質保証
品質マネジメントを担当します。
医療機器には高い品質基準が求められ、部門には経験を積んだ人が配属されることが多くなります。
サービスエンジニア
医療機器を納入したあとのアフターフォローを担当します。
医療機関を訪問して、修理やメンテナンスなどを行います。
営業
医師や医療機関へ営業活動を行います。
医療の現場に自社の医療機器の価値を伝えて、購入につなげることが主な役割です。
医療機器業界の求人・転職
医療機器業界では営業職の採用が活発です。
未経験者の採用にも積極的ですが、MR経験者が医療機器営業に転職する事例などが目立つようになっています。
異業種からの参入やヘルスケア分野を強化する企業が多く見られ、業界経験者が求められています。
業務用機器製造業の給与
区分 | 20~24歳 | 25~29歳 | 43.7歳 (平均) |
所定内労働時間 | 167時間 | 164時間 | 164時間 |
残業 | 12時間 | 16時間 | 12時間 |
月収 | 234,500円 | 281,700円 | 366,300円 |
年間賞与等 | 634,000円 | 875,400円 | 1,312,600円 |
年収 | 3,448,000円 | 4,255,800円 | 5,708,200円 |
(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より)
まとめ
医療機器業界では専門特化した企業による住み分けが確立されていますので、比較的安定した業界といえます。
今後は国際競争力の強化が課題になっています。
【参考】
・総務省「統計基準等」
・厚生労働省ウェブサイト
・一般社団法人日本医療機器産業連合会
・各企業公式サイト
・日本経済新聞出版『日経業界地図2024年版』
・東洋経済新報社『四季報業界地図2024年版』