採用選考において、
「選考を有利に進めたい」
「見栄えのいい経歴書をつくりたい」
という思いから、軽い気持ちで経歴をごまかしてしまう人は少なくありません。
経歴詐称は、単なる記憶違いやミスではなく、採用に有利になるように事実と違うことを記載したり、事実を隠したりすることです。
「これくらい大丈夫」
「バレるはずない」
という油断が取り返しのつかない結果を招くこともありますので、注意が必要です。
経歴詐称と懲戒処分
経歴詐称とは
経歴詐称とは、企業に採用される際に提出する履歴書や面接等において、年齢や学歴、職歴、犯罪歴などを偽ったり、隠したりすることです。
経歴詐称は採否の決定や採用後の雇用条件の決定に重大な影響を与えるので、悪質な経歴詐称は懲戒処分の事由となり得ます。
経歴詐称によって、従業員の適正な配置、人事管理に混乱を生じさせ、雇用関係を継続できないような事実があること、事前にその事実を知っていたならば採用しなかったであろう「重大な経歴詐称」には、懲戒解雇が認められています。
経歴詐称の例
- 年齢詐称
- 学歴詐称
- 能力・資格詐称
- 職歴詐称
- 経験詐称
- 犯罪歴詐称
経歴詐称の主な内容
経歴詐称にはさまざまな内容が考えられますが、バレたときに、懲戒処分の対象となるのは「重要な経歴詐称」があった場合です。
「重要な経歴詐称」とは、その事実がわかっていたら採用しなかったであろうことが客観的にわかる最終学歴や職歴などの詐称が該当します。
学歴詐称
最終学歴は採用の基準に設けられていることが多く、労働力の評価や企業秩序の維持に関わる重要な事項とされています。
学歴を詐称することで、従業員の適正な配置を誤らせるなどの理由が認められれば、解雇を有効とするのが判例の傾向です。
最終学歴を高く詐称したり、大学中退を高卒と低く詐称する場合も懲戒解雇の事由になり得ます。
「学歴不問」の募集では、原則として真実告知義務はないと考えられます。
能力・資格詐称
プログラミングなどの能力があること、医師や教員免許などの資格を持っていることが採用条件になっている場合は、当然、懲戒処分の対象となります。
採用条件になっているわけではない資格を詐称して、実際の職務遂行に問題が出ていないようなケースであれば処分されないことも考えられます。
職歴詐称
職歴詐称は企業名や雇用形態、職務内容、在籍期間などを偽ることです。
一部の職歴を偽り、隠すものから、全部または長期的なものまでさまざまです。
一般的には重要な部分を占める職歴詐称について、厳しい判断がされています。
犯罪歴詐称
履歴書の賞罰欄は、一般的に確定した有罪判決とされています。
また少年時の非行歴については、特に申告する必要はないとされています。
懲戒解雇が認められた例
裁判所は、経歴詐称が懲戒処分の事由となることを認めています。
中退と卒業と偽ったケース
高校中退を高校卒業と偽って採用された自動車教習所の指導員について、指導員には高度な技術・知識・人格等を要求していて、高卒の学歴を有していないことがわかっていれば、採用することはなかったとして、懲戒解雇事由に該当すると判断されました。
(正興産業事件)
大卒を高卒と偽ったケース
高卒者のみを採用することを明確にしていた企業に、大卒の学歴を高卒と偽って採用された従業員が、「経歴を偽りその他の詐術を用いて雇用された場合」の懲戒事由に該当するとして懲戒解雇が有効と判断されました。
(スーパーバック事件)
スキルを偽ったケース
JAVAの上級技術者の募集に採用されたプログラマーが、実際はJAVA言語のプログラミング能力がないのに、能力があるような経歴書を提出し、面接でも同様の説明をしていたことが「重要な経歴の偽り」と判断されました。
(グラバス事件)
経歴詐称の懲戒処分
経歴詐称がバレれば、必ず懲戒処分されるというわけではなく、企業が懲戒処分を行うためには、一定の要件を満たしている必要があります。
就業規則等
経歴詐称を懲戒事由として就業規則等に規定し、懲戒処分の種類が明記されていることが必要です。
懲戒事由
経歴詐称とされた行為が懲戒事由に該当するものであると客観的な事実を認定できることが必要となります。
社会通念上相当性
経歴詐称の内容に対して、重すぎる懲戒処分は無効となる可能性があります。
懲戒処分の種類が社会通念上相当であることが必要です。
適正な手続き
事実の確認や弁明の機会、処分の決定、手続きが適正に行われることが必要です。
解雇権の濫用
経歴詐称を理由とする懲戒解雇は、詐称の内容・程度、入社後の勤続年数、評価などを考慮して、懲戒解雇が妥当かどうか客観的、合理的な観点から判断されます。
懲戒解雇は懲戒処分でもっとも重い処分です。
解雇もやむを得ないとする程度の事情がなければ解雇権の濫用に該当する可能性があります。
解雇を通告された場合には、まずは解雇が妥当かどうか確認してみることが重要です。
解雇通告のチェック
責任のある人の明確な通告かどうかを確かめます。
解雇予告を確認する方法としては「解雇理由証明書」を求めることができます。
解雇理由のチェック
解雇理由が事実かどうかを確かめます。
事実確認のヒアリングなどでは、事実を伝えましょう。
解雇根拠のチェック
解雇理由が事実であったとして、解雇に値するものなのか、根拠をはっきりさせます。
意思表示
解雇に納得がいかなければ、その場ではっきり意思表示することが大切です。
弁明の機会を求めることもできます。
判断に迷ったら「少し考えさせてください」と即答せず、家族や専門家に相談してから返事をすることをおすすめします。
まとめ
採用選考において、応募企業に少しでも良い印象を与えたいと思うことは当然です。
書類選考になかなか通らず、悩み、考え込むことがあるかもしれません。
履歴書や職務経歴書のごまかしを、本人はそれほど重大なことと認識していないケースもあります。
企業の不利益となる行為は厳しく処分されることがあると、社会人としての自覚を強くしなければなりません。
「経歴詐称」の事実があるのであれば、懲戒解雇に値するものなのかどうか、交渉していくことになります。
非を認め、誠意をもって話し合うことが大切です。
【参考】
・労働新聞社
・労働基準判例検索