民間企業において、懲戒処分を行うにはあらかじめ就業規則に定める手続きを行う必要があります。適切に手続きがされていない懲戒処分は無効となる可能性があります。
懲戒の内容は企業の任意ですが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は懲戒権の濫用となり、無効です。
自分は懲戒とは無縁だと感じても、ちょっとした認識の甘さが懲戒処分につながることもあります。懲戒について最低限の基礎知識はもっておきましょう。
懲戒処分の基礎知識
懲戒処分とは
懲戒処分は、業務命令や服務規律に違反した社員に対する制裁として行う措置です。問題のある社員に一定の制裁を加えることで、他の社員にも戒めとする目的があります。
懲戒処分には戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などの種類があり、懲戒解雇が最も重い処分となります。
①戒告(譴責)
戒告と譴責は違反行為に対して警告して、将来を戒める処分です。具体的には始末書の提出などの方法があります。始末書を提出するだけであれば、軽い処分のようにみえますが、その後の人事評価や昇進には影響する可能性があります。
②減給
減給は賃金の一部を一定期間減額して支給する処分です。減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないことになっています。
③停職・出勤停止
停職は一定期間、職務に従事させない処分です。出勤を停止したり、謹慎を命じて、停職期間の賃金を支給しないなどする方法です。
④諭旨解雇
諭旨解雇は退職勧告をして退職させる処分です。勧告を受け入れて、依願退職すれば、自己都合退職が認められます。応じなければ懲戒解雇されることになります。
⑤懲戒解雇
懲戒解雇は予告期間なしに即時退職させる処分です。懲戒のなかで最も重い処分となり、一般的に退職金は支給されません。
懲戒処分の原則
懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則などに懲戒処分となる場合の事由と種類の基準が規定され、社員に周知されていなければなりません。定めのない懲戒処分は認められないとされています。
不遡及の原則
社員が違反行為を行った時点では、懲戒処分の規定がなく、後になって就業規則を作成・変更して、懲戒処分とすることはできません。
一事不再理の原則
すでに懲戒処分を受けている行為について、再び懲戒処分とすることはできません。
平等扱いの原則
同じ規定の同じ程度の違反行為については、懲戒処分も同程度でなければなりません。違う懲戒など不平等な処分を行うことはできません。
相当性の原則
懲戒処分の重さは、規律違反の程度やその他の事業に照らして相当なものでなければなりません。軽微な違反行為で著しく重い懲戒処分を行うことはできません。
適正手続きの原則
就業規則に定められている手続きを踏まなければ懲戒処分を行うことはできません。手続きを経ていない場合、懲戒処分は無効となります。
懲戒処分と解雇予告手当
懲戒解雇は懲戒処分のなかで最も重い処分です。通常の解雇であれば、30日前までに解雇予告をしなければ解雇予告手当を支払わなければなりませんが、懲戒解雇は労働基準監督署の認定を受ければ解雇予告の除外となります。
解雇予告の除外認定を受けるには、時間がかかり、認められないことも多くあります。認定が受けられなかった場合は、普通解雇として解雇予告手当が支払われます。
解雇予告除外の認定基準
- 職場内で軽微とはいえない刑法犯に該当する行為があったとき
- 賭博、風紀紊乱等により職場の規律を乱した場合
- 採用条件の要素となるような経歴の詐称
- 他の事業への転職
- 2週間以上の無断欠勤等
懲戒処分と退職金
退職金は退職する社員に対して支給される賃金です。退職する社員に必ず支給されるわけではなく、就業規則などで退職金の支給について定められている場合には、会社に支給義務があります。
支給義務がある退職金
- 就業規則に退職金に関する規程があること
- 支給要件(適用者の範囲、計算方法、支払方法、支給時期など)が明確になっていること
- 通常の賃金の請求権の消滅時効2年に対して、退職金の請求権の消滅時効は5年
懲戒解雇の場合
懲戒解雇の場合、就業規則で退職金の全部または一部を不支給とする規定があるのが一般的です。退職金の不支給・減額は就業規則や退職金規定などに明記されている場合のみ有効です。
諭旨解雇の場合
諭旨解雇の場合は依願退職として、自己都合退職が認められると、退職金が全額または一部支給される場合があります。
まとめ
懲戒処分は違反行為に対する制裁ですので、解雇となると解雇予告手当や退職金などは支給されないことを覚悟しなければなりません。懲戒の事由に該当しないなど処分に不服があれば、泣き寝入りせずに関係機関に相談しましょう。
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