内定が出て、企業に採用されることが決まれば、労働契約(雇用契約)を締結することになります。
労働契約そのものは契約書を交わさなくても成立しますが、従業員を雇入れる際に、企業には労働条件の明示義務があり、「労働条件通知書」という書面を発行しなければならないことになっています。
雇用契約書とは
企業から労働条件を通知する「労働条件通知書」に対して、契約内容に同意したことを企業と従業員の双方で確認するものが「雇用契約書」です。
入社後のトラブルを避けるためにも、口約束ではなく、いずれかの書面でよく内容を確認することが大切です。
労働契約の成立
労働契約自体は口頭でも効力が発生しますが、企業は従業員を雇入れる際に、労働条件を明示した書面を発行して、本人へ渡さなければならないとされています。
この書面については、労働条件を一方的に通知する「労働条件通知書」を作成すればよいことになっていますが、労働条件の内容に双方が同意した証として交わすのが「雇用契約書」ということになります。
現実的には、従業員一人ひとりと個別に労働条件を明示することは煩雑であることから、実務上は賃金や賞与、労働時間など特に重要な事項の明示をして、あとは就業規則などを読むというのが一般的です。
就業規則をよく読まなかったとしても、就業規則に定められた労働条件を内容とする労働契約を結んだこととみなされます。
自分の認識と合致しているか書面で確認しましょう。
労働条件が異なっていた場合
労働条件が求人情報や自分の認識と違いがないか、必ず書面で確認することが重要です。
正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトの場合も同様です。
労働条件が自分の認識と違っていた場合には、以下の対応も可能になります。
まずは採用・人事担当に確認してみましょう。
- 労働契約の即時解除ができる
- 契約解除から14日以内に帰郷する場合、旅費を請求できる
労働条件の明示
明示する労働条件(労働条件の明示義務)には、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と、規定があれば明示しなければならない相対的明示事項があります。
パートタイマーや契約社員の場合は、下記の内容に加えて、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」、「相談窓口」についても明示することが必要とされています。
絶対的明示事項(必ず明示しなければならない事項)
昇給に関する事項以外は書面で行わなくてはなりません。
- 労働契約の期間
- 就業の場所、従事する業務の内容
- 始業および終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間、休日、休暇、交代勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算、支払いの方法、賃金の締め切り、支払日
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇となる事由も含む)
相対的明示事項(規定があれば明示しなければならない事項)
書面または口頭で行うことができます。
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法、支払時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
- 従業員に負担させる食費、作業用品などに関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 休職に関する事項
固定残業代
残業代を固定金額とする固定残業代制が適用される場合は、
- 固定残業代の金額、
- その金額に充当する労働時間数、
- 固定残業代を超える労働を行った場合にその分について追加で支給すること
を明示しなければならないことになっています。
雇用契約書の記載
雇用契約書は、必ず明示しなければならない事項と規定があれば明示しなければならない事項について、特に重要なものが記載されます。
それ以外の条件については、就業規則が渡されて詳細を確認するのが一般的です。
契約期間
契約期間は正社員であれば期間の定めがなく、契約社員(有期)であれば期間が定められています。
契約期間を定める場合は、原則3年までです。
有期労働契約であれば、更新の有無や更新の条件を必ず確認します。
就業場所
面接した場所が就業の場所とは限りません。
求人情報や面接で確認した自分の認識と合っているかを確認します。
始業・終業時間、休憩時間
勤務時間と休憩時間、所定時間外の労働(残業)があるかどうかを確認します。
休憩時間は労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上と決められています。
休日
休日は1週間に1日または4週間に4日という決まりがあります。
週休2日や土日祝が休みとは限りませんので、確認が必要です。
休暇
年次有給休暇は付与日数が決まっています。
通常は6ヵ月の継続勤務後に10日付与され、その後、1年ごとに追加されます。
給与
基本給以外に通勤手当や残業手当の有無、支給額を確認します。
所定時間外労働の割増賃金は法律を下回ることはできません。
- 基本給
- 各種手当・計算方法
- 締切日・支給日
- 支払方法
- 賞与 など
退職について
自己都合で退職する場合のルールや解雇の事由について確認します。
詳しい内容は就業規則に記載されているのが一般的です。
- 自己都合退職
- 解雇の事由
- 定年・再雇用 など
その他
試用期間があるかどうか、あれば期間は何ヵ月かを必ず確認します。
試用期間中であっても労働契約は成立していますので、労働保険や社会保険は入社日に加入することになります。
労働契約の効力
労働契約を結べば、企業と従業員は労働関係(雇用関係)となり、双方に権利義務が発生します。
従業員は労働力を提供し、企業はその対価として給与を支給します。
企業の義務
企業は従業員に対して以下の義務があります。
- 賃金支払義務
- 使用義務
- 労働条件遵守義務
- 安全配慮義務
- 費用償還義務
従業員の義務
従業員は企業に対して以下の義務があります。
- 労働義務
- 服従義務
- 秩序遵守義務
- 職務専念義務
- 守秘義務
- 能率向上義務
- 協力義務
労働契約の期間
労働契約には期間を定める有期雇用契約と期間の定めのない無期雇用契約があります。
いわゆる正社員は期間の定めのない労働契約(雇用契約)になります。
期間の定めがない労働契約の場合、企業は合理的理由と社会通念上の相当性がなければ労働契約を解約することはできません。
有期雇用契約の場合、期間が満了すれば労働契約は終了しますが、契約の途中で企業が解雇することはやむを得ない事由以外では認められません。
有期雇用契約は更新することが可能です。
一定期間以上、契約更新を繰り返したにもかかわらず、契約期間の満了をもって契約を更新せずに終了する「雇い止め」が問題になることがあります。
雇用契約書の記載が重要ですので、契約社員など有期契約で雇用される場合には、期間や更新についての記載内容をよく確認するようにしましょう。
労働契約の期間
- 期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)
- 期間の定めのある有期雇用契約(原則3年が上限)
無期転換ルール
無期転換ルールは有期雇用契約の更新が繰り返され、通算の契約期間が5年を超えた場合に、従業員が申し込みをすれば自動的に有期雇用契約から無期雇用契約に転換されるものです。
労働契約の注意点
労働契約(雇用契約)は、企業と従業員が対等な立場で決められるものですが、従業員が力関係で不利な扱いを受けないために労働基準法には禁止規定があります。
賠償予定の禁止
労働契約(雇用契約)の不履行について、従業員が違約金や損害賠償を払う内容の契約は無効となります。
例えば、従業員の自由意思で留学し、費用を企業が負担した場合に「留学終了から3年以内に退職する場合は、費用を返還する」という内容の契約は認められますが、業務命令で留学した場合には、返還義務を定める契約は無効となる可能性があります。
前借金相殺の禁止
企業は労働することを条件として、借金などと賃金を相殺することはできません。
従業員本人の同意があったとしても無効となります。
強制貯蓄の禁止
労働契約(雇用契約)で従業員に強制的に社内貯蓄などをさせることはできません。
従業員から委託があった場合には、協定の締結、行政への届出等があれば認められます。
記載の確認
- 雇用形態、給与、勤務地は認識と合っていますか?
- 試用期間はありますか?
- 試用期間はいつまでですか?
- 就業規則を確認しましたか?
労働契約と就業規則の関係
適切な就業規則がある場合、原則として就業規則に定められた労働条件が労働契約(雇用契約)の内容になります。
就業規則より条件が悪い労働契約(雇用契約)は無効になり、労働契約(雇用契約)の労働条件が就業規則より有利な場合は、労働契約(雇用契約)の内容になります。
個別の労働契約(雇用契約)と就業規則、法令との関係で優先される順位は、
法令>労働協約>就業規則>労働契約となります。
労働に関するルール
- 法令:労働基準法など労働に関する法律や通達
- 労働協約:企業と労働組合が団体交渉によって合意したもの
- 就業規則:企業が定めた具体的なルール
- 労働契約:企業と従業員の個別の契約
まとめ
採用が決まるまでは、企業も応募者もよい条件を強調して話を進めがちです。
お互いの信頼関係が構築されていない状態では、少しのことが大きな誤解を生む可能性があります。
せっかく転職できた企業をすぐに退職するようなことにならないために、入社時にその企業のルールを正しく理解して、疑問があれば事前に解消しておくことが大切です。
参考:厚生労働省ウェブサイト