化学製品はほとんどすべての産業で使われていますが、業界の定義や全体像がわかりにくいといわれます。
化学業界には、就職人気が高い洗剤や化粧品、医薬品などの消費財化学メーカーだけでなく、幅広く多彩な製品を提供する多くの企業があります。
転職・就職で押さえておきたい化学業界の概要と動向についてご紹介します。
化学工業とは
化学工業は、日本標準産業分類では「化学肥料」「無機化学工業製品」「有機化学工業製品」「化学繊維」「油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料」「医薬品」「化粧品・歯磨・その他の化粧用調製品」「その他の化学工業」に分類されています。
製品は基礎化学品、中間化学品、最終化学品、家庭などで使われる消費財に大きく分けられます。
化学メーカーには素材メーカーから最終製品メーカーまであり、多種多様の企業が存在します。
業種や製品の種類が多い化学業界は規模も大きく、収益性も高くなっています。
化学工業の原料から製品(例)
- 原料
石油、LPG、天然ガス、動植物油脂、空気・水、食塩、リン鉱石、糖蜜 - 基礎化学品
エチレン、ベンゼン、硫酸、苛性ソーダ、アンモニア、塩素、酸素・窒素、リン酸 - 中間化学品
有機化学品、合成樹脂、合成ゴム、合成繊維、界面活性剤、合成染料、医薬原体、溶剤、無機化学品 - 最終化学品
樹脂ゴム成形品、化学肥料・農薬、印刷インキ、塗料・接着剤、タイヤ、医薬用医薬品、食品添加物 - 消費財
一般用医薬品、家庭用洗剤、家庭用殺虫剤、化粧品
総合化学メーカー
総合化学メーカーはエチレンセンターを運営し、化学品の基礎原料となるエチレンを生産しています。
総合化学以外にも多彩にな収益源があり、付加価値の高い高機能性素材・材料分野を拡大しています。
三菱ケミカルホールディングス
三菱ケミカルは三菱グループの三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨンの3社が合併して、2017年に設立された国内最大の総合化学メーカーです。
高機能材強化へ組織再編を進めています。
- 設立:2005年10月3日
- 本社:東京都
- 従業員数:69,784人
- 平均年齢:46歳
住友化学
住友化学は住友グループの大手総合化学メーカーです。
グローバルカンパニーとして海外拠点の充実に注力してきました。
石油化学のグローバルな事業展開と強化を軸に、ライフサイエンス、情報電子分野に資源を投入し、成長を加速させています。
- 設立:1925年6月1日
- 本社:東京都、大阪府
- 従業員数:34,703人
- 平均年齢:41歳
三井化学
三井化学は三井グループの総合化学メーカーです。
石油化学の構造改革を進め、自動車用樹脂、メガネレンズ材料、不織布など高機能材料を拡大しています。
- 設立:1955年7月1日
- 本社:東京都
- 従業員数:18,780人
- 平均年齢:40歳
旭化成
旭化成は事業の多角化を行ってきた総合化学メーカーです。
化学、繊維、住宅、建材、エレクトロニクス、医薬品、医療等、事業分野を拡大しています。
住宅、医療分野で高収益を上げています。
- 設立:1931年5月21日
- 本社:東京都
- 従業員数:46,751人
- 平均年齢:42歳
東ソー
東ソーは石油化学と機能品を事業の柱とする総合化学メーカーです。
付加価値の高い新分野・新製品の開拓にも力を入れ、複合的に発展することを目指しています。
- 設立:1935年2月11日
- 本社:東京都(本店:山口県)
- 従業員数:13,858人
- 平均年齢:38歳
昭和電工
昭和電工は総合化学メーカーとして成長してきましたが、総合化学から個性派化学会社への転換を打ち出し、無機化学系製品を中心とした事業へシフトしています。
- 設立:1939年6月
- 本社:東京都
- 従業員数:26,054人
- 平均年齢:40歳
機能化学メーカー
機能化学は、化学産業の成長分野となっています。
電子情報材料など世界的な需要拡大で、機能化学メーカー各社は中長期的な成長が続く見込みです。
信越化学工業
信越化学工業は半導体シリコン、塩ビ樹脂で世界最大のメーカーです。
世界各地に工場を持ち、先進的なユーザーと取り引きをすることで、世界トップメーカーとしての優位性を保っています。
- 設立:1926年9月16日
- 本社:東京都
- 従業員数:24,954人
- 平均年齢:42歳
昭和電工(旧日立化成)
旧日立化成は日立製作所の化学部門が独立した化学メーカーです。
昭和電工が買収し、社名変更しました。
半導体関連や機能性材料関連の製品に強みがあり、種類が多いのが特徴です。
海外市場の開拓にも力を入れています。
カネカ
カネカは前身の鐘淵紡績の非繊維事業が独立した化学メーカーです。
化成品、機能性樹脂、発泡樹脂、食品、ライフサイエンス、エレクトロニクス、合成繊維、医療機器事業を展開しています。
- 設立:1949年9月1日
- 本社:東京都、大阪府
- 従業員数:11,335人
- 平均年齢:41歳
UBE(旧宇部興産)
宇部興産はナイロン原料の大手です。
アンモニア、セメントなども扱っています。
- 設立:1942年3月
- 本社:東京都、山口県
- 従業員数:9,849人
- 平均年齢:42歳
ダイセル
ダイセルはセルロース大手です。
合成樹脂、エアバック部品なども展開しています。
- 設立:1919年9月8日
- 本社:大阪府、東京都
- 従業員数:11,104人
- 平均年齢:41歳
デンカ
デンカは合成ゴム、樹脂の大手です。
最先端素材から食品まで幅広い分野の製品を扱っています。
- 設立:1915年5月1日
- 本社:東京都
- 従業員数:6,358人
トクヤマ
トクヤマは半導体シリコンの大手です。
化成品、セメントを中心に事業展開しています。
- 設立:1918年2月16日
- 本部:東京都(本店:山口県)
- 従業員数:5,665人
- 平均年齢:41歳
日本触媒
日本触媒は高吸収性樹脂とその原料であるアクリル酸で世界トップクラスの化学メーカーです。
- 創業:1941年8月21日
- 本社:大阪府、東京都
- 従業員数:4,526人
日本ゼオン
日本ゼオンは合成ゴムの大手です。
エラストマー素材を主力としています。
- 設立:1950年4月12日
- 本社:東京都
- 従業員数:3,981人
- 平均年齢:40歳
JSR
JSRは合成ゴムのトップメーカーです。
多角化事業の成長に注力し、先進化学企業としてさらなる成長を目指しています。
- 設立:1957年12月10日
- 本社:東京都
- 従業員数:9,383人
- 平均年齢:39歳
その他の主要化学メーカー
- 三菱ガス化学:芳香族化学品など
- クラレ:高機能樹脂と各種フィルム
- ADEKA:樹脂添加剤、光熱硬化材料、界面活性剤など
- 日産化学:液晶配向膜、半導体材料、農薬、医薬品など
- 三洋化成工業:高吸収性樹脂など
石油化学
さまざまな化学製品の基礎原料となるのがエチレンです。
日本では、原油から抽出したナフサを分解してエチレンを作っています。
国際競争力を強化する目的でコンビナートの統合が進められています。
エチレンプラント
- ENEOS
- 出光興産
- 住友化学
- 旭化成
- 三井化学
- 三菱ケミカル
- 昭和電工
- 丸善石油化学
- 京葉エチレン
- 東ソー
- 大阪石油化学
石油化学製品製造の売上高
順位 | 企業名 | 売上高 (百万円) |
1 | ENEOS | 7,741,106 |
2 | 出光興産 | 6,686,761 |
3 | 住友化学 | 2,765,321 |
4 | 旭化成 | 2,461,317 |
5 | 信越化学工業 | 2,074,428 |
6 | 三井化学 | 1,612,688 |
7 | 昭和電工 | 1,419,635 |
8 | 三菱ケミカル | 1,365,371 |
9 | 東ソー | 918,580 |
10 | カネカ | 691,530 |
11 | UBE | 655,265 |
12 | ダイセル | 467,937 |
13 | デンカ | 384,849 |
14 | 日本触媒 | 369,293 |
15 | 日本ゼオン | 361,730 |
16 | 昭和電工マテリアルズ | 316,845 |
17 | トクヤマ | 293,830 |
18 | 三洋化成工業 | 162,526 |
19 | 日鉄ケミカル&マテリアル | 133,845 |
化学品商社の売上高
順位 | 企業名 | 売上高 (百万円) |
1 | 長瀬産業 | 780,557 |
2 | 稲畑産業 | 680,962 |
3 | 三井物産プラスチック | 313,182 |
4 | 豊通ケミプラス | 243,699 |
5 | 三井物産ケミカル | 179,889 |
6 | 伊藤忠ケミカルフロンティア | 163,025 |
7 | CBC | 146,780 |
8 | 明和産業 | 143,025 |
9 | オー・ジー | 116,051 |
10 | 三菱エンジニアリングプラスチックス | 107,335 |
11 | 旭日産業 | 94,957 |
12 | 昭和興産 | 75,477 |
13 | 三木産業 | 66,621 |
14 | 丸善薬品産業 | 65,943 |
15 | 三菱商事プラスチック | 63,100 |
16 | 三洋貿易 | 58,550 |
17 | ソーダニッカ | 55,508 |
18 | 白石カルシウム | 55,306 |
19 | 住友商事ケミカル | 48,138 |
20 | 東京材料 | 47,111 |
(帝国データバンク『業界動向2023-Ⅰ』より)
化学業界の主な職種
化学業界ではテーマごとの基礎研究を行い、応用・開発研究で製品化に向けた取り組みをします。
営業と技術営業は電子部品メーカーや食品メーカー、医薬品メーカーなどから自社製品の受注を獲得し、商品開発と生産技術が生産方法を検討し、ラインを確保します。
研究
- 基礎研究
- 応用研究
- 開発・工業化研究
開発・設計
- 商品開発
- 生産技術
生産・調達
- 製造・生産
- 品質管理・品質保証
- 購買・物流
営業・販促
- 営業
- 技術営業・企画
化学業界の採用市場
研究、開発、品質管理、品質保証、技術営業、分析・評価など化学系エンジニアの求人は高い水準で推移しています。
研究・開発職は非公開求人として募集されることがほとんどです。
営業職の採用を理系出身者にしている企業もありますので、転職エージェントを活用するなど、情報収集が不可欠です。
化学工業の給与
区分 | 20~24歳 | 25~29歳 | 43.0歳 (平均) |
所定内労働時間 | 164時間 | 163時間 | 163時間 |
残業 | 14時間 | 15時間 | 12時間 |
月収 | 238,900円 | 290,300円 | 385,000円 |
年間賞与等 | 674,500円 | 979,500円 | 1,532,000円 |
年収 | 3,541,300円 | 4,463,100円 | 6,152,000円 |
(厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」より)
化学業界の転職活動
エージェントサービスを利用すると、業界や職種に精通したキャリアアドバイザーのサポートを受けることができます。
非公開・独自案件の求人紹介だけでなく、書類作成や面接対策のアドバイスなどで選考通過率のアップが期待できます。
まとめ
化学業界は業種として大手企業の割合が高く、待遇など制度面が整備されています。
各種研修制度やキャリアアップのための支援にも力を入れています。
【参考】
・経済産業省ウェブサイト
・石油化学工業協会
・一般社団法人日本化学工業協会
・日本経済新聞出版『日経業界地図2023年版』
・東洋経済新報社『四季報業界地図2023年版』