日本の保険業には大きく分けて「生命保険」と「損害保険」があります。
就活・転職で押さえておきたい保険会社の概要と業界動向についてご紹介します。
保険業界
保険業とは、
「不測の事故に備えようとする者から保険料の払込みを受け、所定の事故が発生した場合に保険金を支払うことを業とするもの(日本標準産業分類)より」
のことです。
保険業には生命保険、損害保険、共済事業、少額短期保険業及びこれらに附帯する保険媒介代理業、保険サービス業が含まれます。
生命保険は人の生命を保障します。生命保険は生命保険会社しか取り扱うことができません。
生命保険会社は個人や企業からの保険料を国債や株式、外国証券などで運用して、死亡等の保険金や給付金を支払います。
需要が増えているがん保険や介護保険、三大疾病保険、医療保険、傷害保険などは、死亡保障ではなく生存保障の保険です。
これらの保険は、生命保険会社だけでなく、損害保険会社も販売することができます。死亡保険離れが進むなか、生命保険会社は生存保障など新商品に力を入れています。
損害保険では事故や災害によるものや財産の損害を補償します。代表的な保険として、自動車保険や火災保険、地震保険などがあります。
損害保険では、合併や業務提携など大きな業界再編がありました。現在は大手損害保険3グループが市場の9割近くを占めるようになっています。
生命保険会社
生命保険業界では代理店やネットなど販売チャネルが多様化しています。
生命保険会社は営業職員の対面営業を主体としてきましたが、営業職員の販売比率は減少し、新たなルートに対応し、販売拡大を進めています。
新商品の投入やオンラインなど販売チャネル強化の動きが目立ちます。
かんぽ生命保険
郵政民営化法に従い設立。
地域密着型の営業スタイルが強みです。
不適切な保険販売が多数発覚し、新しい営業体制へ移行を進めています。
- 開業:2007年10月1日
- 本社:東京都
- 収入:2兆2,009億円
- 従業員数:19,148人
日本生命保険
生命保険の最大手。
代理店向けに特化したはなさく生命を開業し、販売ルートの多様化を図っています。
- 名称:日本生命保険相互会社
- 設立:1889年7月4日
- 本店所在地:大阪府
- 収入:4兆6,479億円
- 従業員数:70,714人
日本生命グループ
- 日本生命保険
- 大樹生命保険(旧三井生命)
- ニッセイ・ウェルス生命保険
- はなさく生命保険
第一生命保険
生命保険大手。
第一生命ホールディングスは大手で唯一の上場企業です。
- 名称:日本生命保険株式会社
- 設立:1902年9月15日
- 本店所在地:東京都
- 収入:2兆2,968億円
- 従業員数:47,036人
第一生命ホールディングス
- 第一生命保険
- 第一フロンティア生命保険
- ネオファースト生命保険
- プロテクティブ
住友生命保険
生命保険大手。
健康増進型保険「バイタリティ」
- 名称:住友生命保険相互会社
- 創業:1907年5月
- 本店所在地:大阪府
- 収入:2兆2,164億円
- 従業員数:44,049人
住友生命グループ
- 住友生命保険
- メディケア生命保険
- シメトラ
明治安田生命保険
生命保険大手。
健康増進型保険「ベストスタイル 健康キャッシュバック」
- 名称:明治安田生命保険相互会社
- 創業:1881年7月9日
- 本店所在地:東京都
- 収入:3兆2,036億円
- 従業員数:47,140人
明治安田生命グループ
- 明治安田生命保険
- スタンコープ
T&Dホールディングス
3つの生命保険会社を傘下におく持株会社。
シニア市場に強みがあります。
- 太陽生命保険
- 大同生命保険
- T&Dフィナンシャル生命保険
ソニーフィナンシャルグループ
ソニーグループの子会社。
- ソニー生命保険
- ソニー損害保険
生命保険準大手
- 富国生命保険
- 朝日生命保険
- オリックス生命保険
損保・ネット・独立系
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス
・三井住友海上あいおい生命保険
・三井住友海上プライマリー生命保険 - 東京海上ホールディングス
・東京海上日動あんしん生命保険 - オリックス
・オリックス生命保険 - SOMPOホールディングス
・SOMPOひまわり生命保険 - ライフネット生命保険
外資系の生命保険会社
外資系の生命保険会社は医療保険で先行しています。
アフラック生命保険
米アフラック・インコーポレーテッドの日本法人。
医療・がん保険に強みがあります。
メットライフ生命保険
米メットライフグループ。
プルデンシャル・ファイナンシャルグループ
- ジブラルタ生命保険
- プルデンシャル生命保険
- プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険
アクサグループ
- アフラック生命保険
- アクサダイレクト生命保険
損害保険会社
損害保険業界は合併など再編を経て、大手損害保険会社の3大グループができています。
東京海上ホールディングス、MS&ADホールディングス、SOMPOホールディングスの3グループによる寡占状態が続いています。
自然災害リスクが高まるなか、今後の成長領域として、新種保険や海外事業の強化を進めています。
東京海上ホールディングス
国内1位。
生損一体経営に強みがあります。
- 設立:2002年4月2日
- 本社:東京都
- 収入:4兆4,699億円
- 従業員数:43,217人
- 平均年齢:43歳
- 東京海上日動火災保険
- 日新火災海上保険
- イーデザイン損害保険
- 東京海上日動あんしん生命保険
MS&ADインシュアランスグループホールディングス
国内2位。
機能別の再編を進めています。
- 設立:2008年4月1日
- 本社:東京都
- 収入:3兆9,344億円
- 従業員数:38,584人
- 平均年齢:49歳
- 三井住友海上火災保険
- あいおいニッセイ同和損保保険
- 三井ダイレクト損保保険
- 三井住友海上あいおい生命保険
- 三井住友海上プライマリー生命保険
SOMPOホールディングス
国内3位。
介護・ヘルスケア事業の強化を進めています。
- 設立:2010年4月1日
- 本店:東京都
- 収入:3兆6,707億円
- 従業員数:49,057人
- 平均年齢:44歳
- 損害保険ジャパン(損保ジャパン)
- セゾン自動車火災保険
- SOMPOひまわり生命保険
- SOMPOケア
JAグループ
全国共済農業協同組合連合会はJAグループの保険を一定に手がけています。
- 共栄火災海上保険
AIGジャパン・ホールディングス
- AIG損害保険
- アメリカンホーム医療・損害保険
ソニーフィナンシャルグループ
ソニーグループの子会社。
- ソニー損害保険(ソニー損保)
- ソニー生命保険
生命保険会社の業務
生命保険会社には、主に保険と金融の業務があります。保険業務では、商品の開発から営業、販売を行っています。
金融業務では、保険料の一部を運用し、保険金の支払いを行っています。保険会社では、グローバルな視点を持った人材の活用を進めています。
商品開発
市場の動向やニーズ、現場からの要望をもとに、新商品を開発します。マーケティングだけでなく、幅広いスキルが求められます。
営業
生命保険の営業は個人営業、法人営業、代理店営業に分かれています。販売チャネルの多様化により、代理店営業の重要性が高まっています。
- 個人営業:営業職員、外交員の訪問販売
- 法人営業:団体保険・団体年金の販売
- 代理店営業:代理店の開拓、販売促進
資産運用
生命保険会社の運用は、安全性・収益性・流動性・公共性への配慮が求められます。専門性が必要となり、キャリア採用も多い部門です。
- ファンドマネージャー
- アナリスト
システム部門
生命保険会社の業務には、独自に開発したシステムが使われています。社内だけでなく、外部の協力会社とシステムの運用・保守を行っています。
- システム開発
- システム運用
- システム保守
アクチュアリー
数理業務のプロフェッショナルです。生命保険の保険料はアクチュアリーが算定しています。商品開発や資産運用など、幅広く活躍しています。
損害保険会社の業務
損害保険会社の大きな業務として、営業業務と査定業務があります。
営業業務では、保険商品の販売を行っています。査定業務では、保険金の支払いを行っています。全国の拠点を本社の管理部門が支えています。
営業
多くの損害保険会社の営業部門は、リテール営業、法人営業、自動車営業に分かれています。
- リテール営業:代理店に対しての営業、代理店の支援、代理店の開拓
- 法人営業:大企業の顧客を担当
- 自動車営業:ディーラーやリース会社の代理店を担当
損害調査
事故が発生すると、すべての案件は損害調査部門で調査されます。自動車保険や火災保険など保険の種類によって担当が分かれています。
アジャスターは、自動車保険における損害調査の専門家です。アジャスターは、損害の確認だけでなく、示談交渉を行うこともあります。
コールセンター
コールセンターでは、問い合わせや事故受付など契約者との窓口を担当します。
特に通販型の損害保険会社では、さまざまな業務に対応しています。
- 保険に関する問い合わせ
- 契約変更の手続き
- 証券の再発行
- 事故受付
- 資料請求
資産運用
損害保険会社では、契約者からの保険料を運用し、収益を上げています。
損害保険業界における収入の多くは保険料ですが、利益については資産運用が重要な役割を担っています。
アクチュアリー
数理業務のプロフェッショナルです。損害保険などの商品開発や資産運用など、幅広く活躍しています。
管理部門
本社の管理部門では、会社全体の管理業務を行っています。
- 経営企画
- 人事・総務
- 経理・財務
- 法務・コンプライアンス
保険業界の採用市場
生命保険会社では、女性の営業職員の対面営業が販売の中心でしたが、コロナ禍でネットで保険の見直しや検討をする人が増えました。
銀行窓販や代理店販売へのシフトが進み、販路が多様化していることなどから、新卒採用だけでなく、キャリア採用の求人も安定して出るようになっています。
代理店販売を強化する保険業界では、未経験からチャンスがある代理店カウンター営業や代理店支援部門の求人ニーズもあります。
保険業の給与
区分 | 20~24歳 | 25~29歳 | 46.0歳 (平均) |
所定内労働時間 | 152時間 | 152時間 | 150時間 |
残業 | 7時間 | 11時間 | 6時間 |
月収 | 243,000円 | 306,200円 | 400,100円 |
年間賞与等 | 356,700円 | 831,100円 | 1,255,300円 |
年収 | 3,272,700円 | 4,505,500円 | 6,056,500円 |
(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より)
保険業界の転職活動
保険会社では、総合職、エリア総合職、一般職、専門職などさまざまな区分で募集が行われています。
保険業界は、海外損保会社のM&Aなどによって海外進出を加速させていることから、グローバルに活躍できる人材を求めています。
また女性のキャリア支援に積極的な企業が多く、管理職も増えています。
まとめ
保険会社は、福利厚生が充実していて、給与も高水準であることから、人気があります。
業界未経験であれば、販路の多様化や営業スタイルの変化に伴い、ニーズが増加している営業系の求人にチャンスがあるといえます。
コース別人事の区分など、働き方によっては、待遇に格差も見られます。
女性社員が多く、ダイバーシティを推進し、働きやすい職場づくりに積極的な企業が多いといえます。
【参考】
・金融庁ウェブサイト
・総務省ウェブサイト
・一般社団法人生命保険協会
・一般社団法人日本損害保険協会
・各企業公式サイト
・日本経済新聞出版『日経業界地図2024年版』
・東洋経済新報社『四季報業界地図2024年版』